産業医のPOPです。
睡眠って大事です。健康の基盤といってもいいぐらいです。
仕事は忙しいし1日24時間のうち何時間も寝ているなんてもったいない!と思っている人はいませんか?
産業医として多くのビジネスマンと接してきて気づいたことがあります。
会社のエラい人は実はけっこう寝ている、ということ。
もっと言えば、エラくなればなるほど睡眠を含めて自分の健康管理に熱心な傾向があります。
※個人の見解です
成功するために健康管理が大事なのか、偉くなったから大事にしているのかはわかりませんが、手軽で効果も大きい睡眠戦略、取り入れてみませんか。
目次
睡眠の戦略1:仕事でのパフォーマンスを最高に保つ
そもそも私たち人間は、寝ずに活動できる生物ではありません。
きちんと睡眠をとって、日々の疲れを癒すことが重要ですよね。
日ごろから日中の眠気を感じているなら、明らかな睡眠不足といえます。
睡眠時間が6時間未満だと日中に強い眠気を感じる人が多くなることがわかっています。
睡眠時間は7~8時間程度を目安としてたっぷり確保しましょう。
また、睡眠不足は作業効率を低下させます。
注意力が低下しますし、事故やミスが起きやすくもなるでしょう。
人間が十分に覚醒して作業を行うことが可能なのは起床後12~13時間が限界です。
起床後15時間以上では酒気帯び運転と同じ程度の作業能率まで低下することと
起床後17時間以上では飲酒運転と同じ程度まで作業能率が低下することが研究で示されています。
睡眠不足の状態が続いていると、作業効率は日が経つごとに下がっていきます。
しかも効率が落ちているのは明らかなのに、自分ではそう気づいていないんですね。
自分ではバリバリ絶好調と思っていても、実は本来ならしないようなミスを知らないうちに連発しているかもしれません。
「自分は短時間睡眠でも大丈夫」という考えはあてにならないと思っておいた方がいいでしょう。
ということは、取るべき戦略はただひとつ。
いかに起床後13時間以内に仕事を高パフォーマンス状態で終わらせるか。
これにつきます。
知らないうちにお酒を飲んだようなレベルでミスをしてしまって余計な仕事を増やすぐらいなら、さっさと片づけておいしく一杯やったほうがいい、ということですかね。
残業して2時間かけた作業は、たっぷり寝た翌日なら30分で終わるものかもしれませんよ。
効率が落ちた状態で長々と働くよりも元のパフォーマンスレベルに戻ってからさっと片づけてしまいましょう。
起床後13時間以上たったら仕事はほどほどにして、早めの帰宅で睡眠を確保するのが、できるビジネスマンの心得といえるでしょう。
昼寝も戦略のうち
事情があってどうしても夜しっかり寝られなかった、という場合は昼食後に15~30分程度の昼寝を取り入れるのもおすすめです。
熟睡しすぎてしまうと余計に午後の仕事がつらくなってしまうので注意。
コーヒーなどカフェインをとってから机に突っ伏す姿勢で寝るなど、程よい仮眠がとれるように色々試してみてください。
睡眠負債を貯めない。プライベートも充実させられる週末の戦略
睡眠負債という言葉が有名になりましたね。
寝だめは無意味である、というのも同時に広く知られるようになったと思います。
一言でいうと「毎日しっかり寝ましょう」ということです。
日々の睡眠不足は着実にたまっていき、週末にまとめて寝たところで返済はできない、という説明を聞いたことのある人も多いのではないでしょうか。
6~7日間にわたって睡眠不足が続くと、その後3日間たっぷり寝ても作業効率がもとのレベルまで戻らない、ということを示した研究があります。
日ごろハードワークで十分に眠れていない人なら、たまの三連休で最終日にやっと疲労が回復してきた、という経験をしたことがあるのではないでしょうか。
これまで見てきたように、睡眠を削って働くのはもはやナンセンス。
平日からしっかり睡眠を確保しておいて、せっかくの休みは寝て過ごすのではなく自分自身のやりたいことを楽しむ時間にできるといいですよね。
プライベートにやりたいことがない、という人も時々出会いますが、ちょっと疲れすぎているのかもしれません。
まずはゆっくり体を休めてください。
たっぷり休養をとってすっきりしたら、何かに興味がわいてくるかもしれませんよ。
- 睡眠不足はミスの元。7~8時間の睡眠を確保する!
- 「自分は寝なくても大丈夫」を信用しない!
- 結局毎日しっかり寝るのが効率アップへの近道だ!
睡眠の戦略2:質の高い睡眠のための工夫を取り入れる
睡眠は時間もさることながら質も重要です。
質を高めるためのアプローチについて知っておきましょう。
睡眠環境を整える。特に大事な光と音、それから入浴
寝室には遮光カーテンをかけるのがお勧め。
遮光レベルも色々ありますが、一番真っ暗になるレベルのものがいいのではないでしょうか。
それから音。
テレビやラジオ、音楽を流したまま寝るのはやめた方がいいでしょう。
屋外の音が気になるなら、耳栓を使うのもありかもしれません。
寝る直前までスマホやパソコン、テレビを見ているのも良くありません。
これらの電子機器モニターから出る光は人間を覚醒させるため、少なくとも寝る1~2時間前は控えましょう。
光といえば、朝起きたときに太陽の光を浴びることも忘れずに。
からだのリズムを整えて、夜自然に質のいい眠りに導いてくれます。
入浴の効果も見逃せません。
お風呂で熱すぎない湯船にゆっくりつかって、温まった後体が冷めていくタイミングで床に就くと気持ちよく眠れるでしょう。
寝る1~2時間前の入浴が一番お勧めです。
いびきをかく人は要注意。減量、横向き、睡眠外来。
誰かに寝ている時のいびきを指摘されたことがある人は、日常的に睡眠の質が低い可能性があります。
睡眠時無呼吸症候群かもしれません。
その名の通り寝ている時に無呼吸になってしまうこと。
起きている時では到底不可能なほど長い時間息が止まり、血液の中の酸素がものすごく少なくなります。
そんな状態で睡眠の質がいいわけはもちろんありませんよね。
こうなってしまうと日中に激しい眠気に襲われて事故が起きたりします。
それだけではありません。
睡眠時無呼吸症候群の本当の恐ろしさは、他の病気の原因になってしまうという点です。
高血圧、糖尿病、脳卒中、心臓の病気・・・様々な不調を引き起こします。
もしもあなたがいびきをかいているなら、睡眠時無呼吸について睡眠外来など専門家に相談してみるのもおすすめです。
もっと手軽な方法としては、肥満のある人なら痩せること。
そして寝る姿勢を仰向け以外、横向きなどにしてみること。
まずはこれらを試してみるのもいいでしょう。
睡眠時間は確保しているはずなのに日中眠気が強いという人は、まず専門家に相談してくださいね。
カフェインの取り方に注意する
「眠れない」という悩みの相談に来る人には、カフェインの取り方に問題がある人がいます。
コーヒー、紅茶、エナジードリンク、緑茶などカフェインを多く含む飲料を頻繁に飲んでいたり、夕食後まで飲んでいたりする場合は、カフェインを控えることで解決することがあります。
一切ダメというわけではなく、量と時間帯に注目して調整してみてください。
特に寝る時間の3~4時間前は一切とらないのがおすすめ。
そもそもカフェインの取りすぎにも注意が必要。
シンプルですが、結構これで解決する人もいたりするので一度見直してみてはいかがでしょうか。
適度な運動は睡眠にも効果的
日ごろから運動している人にはほとんど常識ともいえます。
ハードすぎる運動は逆に寝付けなくなったりしますが、適度な運動は睡眠ととても相性がいいです。
運動不足の人はウォーキング程度の取り組みやすい運動から始めて下さいね。
無理は禁物。
細く長く定期的に続けて、習慣化できるぐらいを目指してやってみましょう。
寝酒はNG!飲酒は良い睡眠の敵。
寝る前のお酒は寝つきを良くする効果があります。
が、長く深く眠れないという大きなデメリットがあり、結局マイナスの結果となるのです。
睡眠の途中で目が覚めやすくなったり、睡眠が浅くなったりしてしまいます。
寝酒が習慣の人は今日からでもやめることをお勧めします。ついでにタバコもね。
- 光と音、入浴を味方につける!
- いびきをかいているかどうか要チェック!
- カフェインは量と時間に気を付ける!
- できれば運動と禁煙!
- 寝酒はダメ!
睡眠の戦略3:うまく眠れないときは専門家に相談
- 睡眠時間は確保した
- 睡眠時無呼吸はない
- カフェインもとっていない
- 寝酒をしていない
- 適度に運動している
これら全部をクリアしているのにうまく眠れないときはどうしたらいいのでしょうか。
一番いいのは専門家に相談することです。
一日や二日程度寝れないぐらいなら心配する必要はありませんが、『眠れない』症状が続くときには専門家へ相談しましょう。
睡眠の専門家とは、睡眠外来か、精神科(心療内科)です。
厳密には精神科と心療内科は違うのですが、ここではひとくくりにしておきます。
眠れない原因は何か、きちんと診てもらうことが大事。
『眠れない』以外にも何か気になることがあるなら、一緒に伝えましょう。
眠れない原因は様々ですが、放置し続けるとうつ病などを発症することもあります。
うつのせいで眠れないこともあれば、何か別の原因で眠れない状態が続いたせいでうつ状態になることもあるのです。
我慢しないで早めに相談が吉です。
睡眠薬はきちんと使えば怖くない
何となく、薬よりも寝酒などのほうが体への害が少ないと思われがちですが、それは違います。
専門家の指導のもとで正しく使えば、睡眠のための薬は強い味方です。
睡眠導入剤などの薬を使いながらまずしっかり十分な睡眠をとる。
睡眠不足のままではあちこちに異常がでてきてもおかしくないので、まずは休養と疲労回復のために睡眠を無理やりにでも確保してしまいましょう。
状態が回復すれば、薬はいずれ徐々になくしていくことは十分可能なのですから。
そして、睡眠に関する薬を扱うプロは精神科医です。
精神科はかかりづらいとか嫌だとか言う人もいますが、睡眠のために精神科にかかっている人は実はたくさんいますよ。
睡眠の悩みがあるなら、気軽に受診してみてはいかがでしょうか。
- 一人で悩まないで専門家へ相談すること!
- 薬を使うのも悪くない!
まとめ
一度に全部やろうとするとなかなか大変なので、まずはあなたが簡単に取り組めそうだと思うものから試してみるといいですね。
自分の生活や体調に合った睡眠戦略へ磨き上げていってください。
ポイントのおさらいです。
- 睡眠は7~8時間が目標
- 起床後13時間が仕事を全力でできる限界
- 睡眠環境を整えよう
- いびきをかくなら睡眠時無呼吸症候群かも
- 眠りの質を下げるカフェイン、酒には注意
- 眠れないなら早めに専門家に相談
【参考文献】
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