メンタルヘルス

うつ病などメンタルヘルス不調からの復職を成功に導く10の条件

うつからの職場復帰10の条件と産業医の視点

こんにちは。産業医のPOPです。

産業医というのは「働く人の健康を守る」仕事です。

今の日本における大きな健康問題のひとつは、メンタルヘルス

うつ病や適応障害といった「こころの病気」をひとまとめにして「メンタルヘルス不調」と言います。

メンタルヘルス不調では治療のために仕事を休まないといけないことがあります。

短期間(有給休暇の範囲など)ですっかり回復してしまうのならいいのですが、ときに長期間の休みが必要になるのがメンタルヘルス不調です。

ここでは、メンタルヘルス不調で長期間仕事を休んでいた人が職場に復帰するにあたって、それを支える産業医が何をチェックしているのか具体的に示しています。

メンタルヘルス不調からの職場復帰/復職が難しいのは、再発・再休業の可能性があるからです。

慎重に判断しなければ復帰後すぐに再休業となってしまい、本人も周囲も困るばかり。

そのためスムーズな復帰と短期間での再発・再休業を防ぐために「職場復帰支援」が必要です。

残念ながら再発・再休業を完全に防ぐことは難しいのが現状。

それでもここで示す10の条件をクリアできていれば、職場復帰後1か月などの短期間のうちに再発・再休業となることはほぼ避けられると考えています。

もちろん病気や病状によって詳細は変わってきますので、最もメジャーな「うつ病」の典型的なケースを想定していることにご注意ください。

こんな人の役に立ちます

  • 現在メンタルヘルス不調による休業/休職中で、職場復帰/復職したいと考えている人
  • 部下がメンタルヘルス不調で休業/休職中の上司
  • 産業医のいない職場で復職支援を担当する人(人事労務管理担当者など)
  • 経験が浅いなどで復職支援に悩む産業医や保健師

厳密には「休業と職場復帰」、「休職と復職」は意味が違うのですが、ここからは「休業と職場復帰」という言葉に統一して解説していきます。

長期間休業後のスムーズな職場復帰には、周囲の支援が有効

たくさんの人の手

メンタルヘルス不調に限らず、健康問題で数か月以上休業した人の職場復帰には何らかのサポートが重要です。

なかでもメンタルヘルス不調は長期休業の多くを占めますし、復帰後の再発も少なくありません

本人や主治医だけでなく、職場の上司や同僚、人事・労務管理部門、産業医や保健師・衛生管理者など、様々な立場の人たちが協力して支援することで、スムーズな復帰を実現できる可能性が高まります。

2004年に「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(以下「職場復帰支援の手引き」とします)が厚生労働省より公表されました。(2009年改定)

長期休業からの復職をどのように支援したらいいのか、この手引きの中で基本的な考え方や手順が示されています

産業医や保健師はもちろん、管理職や人事労務担当者など職場復帰支援に関わる人には必ず知っておいてほしい内容です。

あなたが長期休業している当事者であっても、流れを知っておいて損はありません。

職場復帰支援の流れは大きく5つのステップに分けられます。

職場復帰支援の5つのステップ職場復帰支援の5つのステップ(職場復帰支援の手引きより)

第2、第3、第4ステップでは、それぞれ違う立場の人が職場復帰が可能かどうか判断します。

第2ステップでは主治医

第3ステップでは主に産業医

第4ステップで最終的な職場復帰の決定をくだすのは会社(事業者、人事労務管理部門)です。

残念なことに、第2ステップ(主治医からの復帰可の意見)をクリアしても第3ステップで産業医から職場復帰の許可が出ないことが珍しくありません

それはなぜなのか。

主治医と産業医の視点の違いがここにあります。

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もちろん第1ステップも大事だけど、今回はスルーしています

職場復帰成功のための10の条件と産業医の視点

チェックリストと10の数字

長期休業者本人から「職場復帰したい」という意思が会社に伝えられることで、職場復帰支援の流れが本格的に動き出します。

手引きの5つのステップでは「主治医の復帰可の判断(診断書)」の後に「産業医の判断」という流れですが、産業医面談は主治医の診断書が出るにも実施しておくとスムーズです。

特に、産業医が職場にいつもいるわけでない場合(嘱託産業医など)は気を付けないといけません。

せっかく診断書を持って「復帰したい」と産業医面談を受けても、そこで許可が出なければ次の産業医面談は下手すると1~2か月は後になるからです。

「絶対今すぐに復帰したい!」となってからではなく、「そろそろ復帰について考えてみようかな」というタイミングで産業医に一度会っておくと安心ですよ。

さて、職場復帰の10の条件つまり産業医が職場復帰の可否を判断するときに見ているポイントは以下の通りです。

  1. 本人の復帰したい気持ちが十分ある
  2. 主治医が許可している(=病状が安定している)
  3. 睡眠リズムが整っている
  4. 日中活動的に過ごすことが出来ている
  5. 業務遂行能力が十分回復している
  6. 安全に通勤・退勤できる
  7. 通常の勤務日・勤務時間に出勤して働くことができそう(※)
  8. 職場の受け入れ状況が整っている
  9. 復帰後も治療を継続できる
  10. 復帰後も産業医などの定期的な支援が可能

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それぞれ詳しく見ていきましょう!

①本人の復帰したい気持ちが十分ある

職場復帰は本人のやる気なくしては成功しません

当然のことではありますが、一番大事なのはここです。

実は会社や上司に早く復帰するように急かされているケースや、復職期限が迫っていて焦って復帰を申し出ているケースでは、のちのち問題が出てくるからです。

また、典型的なうつ病ではなく、双極性障害(そううつ病)などでは「すぐにでも復帰したい、元気がありあまっている」という状況自体が病状悪化のサインである場合も否定できません。

そのため、あくまで本人の申し出によって実施している産業医面談ではありますが、「働きたいという意思」については必ず改めて確認します

この「働きたいという意思」のことを産業医はよく「健全な就労意欲」と表現します。

治療によって病気が十分に回復すると、「働きたい」という自然にわきおこる意欲が出てくるのです。

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いつだって働きたくなんかない!という声も聞こえてきそうですが・・・それは一旦置いておきましょう

「あまり長く休むと職場に迷惑がかかるから復帰の希望を出しました」なんていうケースも経験しますが、まずはしっかり回復することを優先してください。

準備が整う前に焦って復帰してしまうと、再発や再休業のリスクが高まります

休業者
休業者
健全な就労意欲かどうか、自分ではわからない・・・

そんな時は、まずは気軽に産業医面談を受けてみることをお勧めします。

素直な気持ちを話して、どうしていけばいいか一緒に考えていきましょう。

②主治医が許可している

二つ目の条件は「病状が安定している」ことです。

多くの場合「主治医の復帰許可」イコール「病状の安定」と考えて良いのですが、これも改めて確認する重要な項目です。

たまに、主治医が本音では「まだ安定していない」と思っていても本人や家族の強い希望に押し負けて復帰可の診断書を作成している場合があります

そのため実際に面談してみて「どうも病状が不安定だ」と感じれば、主治医に診療情報の提供を依頼するなど連携をとって、最適な復帰のタイミングを計ります

うつ病をはじめとするメンタルヘルス不調は大なり小なり症状に波があるものです。

とはいえ、明らかに調子が悪くなっているタイミングでの復帰はやはり許可できません。

一番大事なのは、復帰後に安定して勤務できて、再発・再休業しないことです。

再発は繰り返すごとにさらなる再発のリスクが高まって治療が難しくなりますので、最初の復帰でタイミングを早まりすぎないことが重要なのです。

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焦らないで、一番いいタイミングを探りましょう

この項目は正直なところ、産業医がいないとチェックが難しいこともあります。

病状について把握するために本人の同意のもと、人事労務管理担当者などが本人と一緒に主治医の説明を聞きに行く、という方法がありますので、本人や主治医と相談してみるといいでしょう。

③睡眠リズムが整っている

  • 夜寝て朝起きられること。
  • 昼寝をしないで過ごせること。

少なくとも平日5日間はこのように過ごせていなければ、職場復帰はできません。

でも実際は、この条件をクリアできていないために復帰の許可ができないことがよくあります。

  • 夜7~8時間程度は寝ることができて通勤に間に合う時間に起きることができる。
  • 昼間は昼寝せずしっかり起きていられる。

こういう状態になってくれば、復帰が見えてきます。

おすすめは「生活記録表」をつけること。

睡眠や日常の活動スケジュールの記録を、少なくとも2週間程度、できれば4週間続けてほしいです。

記録表は色々なバージョンがインターネットで入手できますし、主治医の病院で独自の書式を持っていることもあります。

「いつ何をしたか」という活動記録だけでなく「そのときどのような気持ち・体調だったか」も一緒に記録するのがおすすめ。

この生活記録表がしっかり作成できていれば、睡眠だけでなく「④日中の活動性」と「⑤業務遂行能力」の一部も確認することができるため、スムーズな復帰の助けとなります。

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これがあると産業医としてはとても助かります!

生活記録表は本人の許可がもらえれば職場の上司や人事労務担当者と共有することもあります。

「職場復帰のできる生活リズムである」ということを客観的に示す材料となるので、会社側に受け入れ準備をしてもらいやすくなります。

これは本人以外に証明できる人がいないので、うその記録表を提出する人もいるかもしれません。

でも結局それで困るのは再発・再休業のリスクが高まる休業者本人ですから、正直に書くのが一番です。

④日中活動的に過ごすことができている

昼寝しているわけでなくても、一日中自宅で寝転がってテレビを眺めているようでは職場復帰はうまくいきません。

このあたりにも主治医と産業医のギャップがあります。

安定して引きこもっている状態(外来受診は何とかできるレベル)では働けませんよね。

「①健全な就労意欲」「②病状の安定」「③睡眠リズム」のすべてをクリアできたら、次にやるべきは「仕事を想定して」日中活動することです。

オフィスワーカーなら午前中は図書館で新聞や本を読み、午後は軽く運動して過ごす、といった活動がお勧めです。

在宅ワーカーであればこれぐらいの状態でも少しずつ仕事を再開することが可能でしょうが、職場に出勤しないといけない人は、たくさんの人がいるところに出る練習をしていきましょう。

図書館での読書は自宅と違った緊張感がありますので、職場復帰前の訓練にはとても適しています。

うつ病などでは症状が一番強く出るのが朝の時間帯です。

そのため「朝から活動を始めて午前中に集中できるかどうか」は大事なチェックポイントのひとつです。

それから、運動も大事

肉体労働ではない人でも、毎日通勤して朝から晩まで働くにはある程度体力がいります。

精神面では順調に回復した場合でも、実際の職場復帰後には「思ったよりも疲れる」という人がほとんど

そのため主治医よりも産業医の方がどうしても慎重になりがちです。

適度な運動はメンタル面の調子を整えるうえでも効果的ですのでぜひ取り入れてみてください。

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もちろん主治医のOKをもらってからにしてくださいね

⑤業務遂行能力が十分回復している

これは休業者自身のもともとの仕事や、復帰後に与えられる職務によって何を見るかが変わります。

オフィスワーカーであればパソコンを使った書類作成などができるかどうか、といった具合です。

たとえば「生活記録表」をエクセルできれいに自分で作成しているのであれば、ある程度のPC作業ならできそうだな、と考えられます。

運転業務、対人業務など、一般的にメンタルヘルス不調からの復帰直後は避けた方がいい業務というのがあります。

ですが業種や会社との雇用契約などによっては完全に避けるのは難しい場合もありますよね。

その場合「十分業務を遂行できそうだ」と本人、産業医、会社側が全員納得してからの復帰にしないとトラブルの原因となりかねません。

このあたりの判断や調整は産業医の腕の見せ所とも言えるでしょう。

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精神科に限らず、病院の医師はたいてい「仕事」について詳しくありません

業務についてよく知っている産業医ならではの視点です。

⑥安全に通勤・退勤できる

当然ですが、通勤の電車に怖くて乗れないとか、車通勤だけど運転中気分が悪くなるとか、そんな状態での職場復帰は無謀です。

行きも帰りも無事に目的地にたどり着けそうかどうか、ということですね。

通勤の安全が確保できない状態(たとえば病状が十分回復していないなど)で会社側が無理に復帰させることは「安全配慮義務」に違反すると言えます。

無用な通勤災害を起こさないためにも、この条件の確認は外せません。

⑦通常の勤務日・勤務時間に出勤して働くことができそう(※)

忙しく移動する人々

職場復帰に関する社内規定がない場合や、短時間勤務、お試し(リハビリ)出勤などの制度がない場合には、フルタイムでの復帰が原則です。

月曜日から金曜日、毎日定時勤務ができることが会社側の要求する復帰の条件であることは珍しくありません。

さすがに復帰直後の残業を命じるような会社はそうそうないと思いますが、フルタイム勤務ができる状態でないと受け入れられないという会社は結構あるのです。

会社はリハビリや治療の場ではありませんので、冷たいようかもしれませんが、働けないのであれば職場に戻ることは難しいでしょう。

そうすると、ここまで見てきた条件を満たしているだけでは足りずリワークに通ってもらうケースも考えられます。

リワークというのは復職に向けた訓練を行う施設で、回復の程度に応じて様々な課題やプログラムを行うところです。

すでに再発による休業の場合や、初発でもフルタイム勤務ができる状態までしっかり持ち上げたければ、リワークは積極的に使うのがお勧めです。

産業医がいない会社の場合でもリワークには職場復帰支援のプロがたくさんいますのでしっかり支援を受けられるでしょう。

同じように長期間休んでいる人が集まってプログラムを受けますので、同じ立場の仲間と支えあえるというメリットもあります。

ただし。

どんなに準備しても、結局のところ復帰して働いてみないとわからないことがたくさんあるんですよね。

少なくとも「この状態ではまず無理」という早すぎる復帰を避けることが大切です。

(※)

会社によっては職場復帰支援プログラムや就業規則など、職場復帰に関するルールが決められています。その場合会社のルールに従うことが必要ですので、ここで説明している内容がすべて当てはまるとは限りません。

職場復帰に関するルールがない会社は、ルールをつくることをおすすめします

⑧職場の受け入れ状況が整っている

本人の状態が万全となっても、職場の準備に時間がかかるケースもあります。

特に休業前とはちがう職場や仕事への配置となる場合や、休業前のポストにすでに別の人がいる場合などに起こりがち。

職場復帰は「もとの職場・もとの仕事」が原則ではありますが、状況によってはかないません。

人間関係トラブル(パワハラ、セクハラ、いじめ含む)が原因での休業や業務自体への不適応など、どうしても新たな環境での復帰とせざるを得ないこともあります。

そうすると新しい職場の上司となる人に産業医や人事労務担当者などから状況を共有して理解を求めたり復帰後の業務として適したものを選んだりといったことに時間がかかったりするのです。

メンタルヘルス不調で長期休業している人を新たに部下として受け持つことになったら、ある程度緊張したり慎重になったりするのは仕方のないことです。

産業医からは、どんな業務なら大丈夫そうか、受け入れる職場としてどんなことに注意したらいいか、を助言したりします。

⑨復帰後も治療を継続できる

職場復帰はゴールではありません

大きな目標の一つではありますが、職場復帰後も治療を続けることが重要です。

薬を飲んでいては復帰できない、と誤解している人をたまに見かけますが、これは間違い。

むしろ「職場復帰」という大きな大きな環境の変化を乗り越えるために、これまで続けてきた薬での治療を続けることが重要です。

大事なのは通院と治療を中断しないこと。

職場復帰後も主治医と連携をとりながら、徐々に薬や通院頻度を減らしていくのがセオリーです。

早すぎる治療中断は再発・再休業の大きなリスクですので要注意。

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大事なことなのでもう一度。焦らず慎重に!

⑩復帰後も産業医などの定期的な支援が可能

段階的な業務負荷の調整や、再発のきざしに早めに気づくためにも、職場復帰後の定期的な産業医面談などが欠かせません。

典型的なケースでは少なくとも復帰後1年間ほどは何らかの形で産業医、保健師、上司、人事労務管理担当者などが支援を継続することが大切です。

残業禁止などの配慮は、いずれ少しずつ解除していって、最終的にはほかの従業員と同じような条件で働けるようにしていく必要があります。

職場復帰した後のサポートが不十分では、ここまで積み上げてきた慎重な復帰判断も水の泡。

継続的な支援ができる環境を整えられるように、職場や会社側と調整をはかっています。

まとめ

ジグソーパズルのあいたところが光っている

うつ病などメンタルヘルス不調での長期休業から職場復帰するときに成功するための10の条件を、産業医の視点で解説してきました。

産業医がいない職場では難しい項目もありますが、少しでも取り入れることで復職後間もない再発・再休業や離職のリスクを下げることができるでしょう。

10の条件をもう一度確認してみてください。

  1. 本人の復帰したい気持ちが十分ある
  2. 主治医が許可している(=病状が安定している)
  3. 睡眠リズムが整っている
  4. 日中活動的に過ごすことが出来ている
  5. 業務遂行能力が十分回復している
  6. 安全に通勤・退勤できる
  7. 通常の勤務日・勤務時間に出勤して働くことができそう(※)
  8. 職場の受け入れ状況が整っている
  9. 復帰後も治療を継続することができる
  10. 復帰後も産業医などの定期的な支援が可能

この記事が休業者本人、産業医や保健師、人事労務担当者など職場復帰とその支援に悩む人の参考となれば嬉しいです。

  • 早期の再発・再休業を防ぐため、焦りは禁物
  • 「主治医の診断書」は絶対ではない
  • 「生活記録表」を活用しよう
  • 職場の状況に適した「職場復帰支援プログラム」がなければ作成推奨
  • 職場復帰はゴールではない

【参考文献】

難波克行.メンタルヘルス不調者の出社継続率を 91.6% に改善した復職支援プログラムの効果.産衛誌 2012; 54 (6): 276–285

職場復帰支援マニュアル.「中小規模事業場におけるメンタルヘルス対策の進め方に関する研究」.産業医学振興財団委託研究