こんにちは。産業医のPOPです。
会社で働く人の心身の健康を守るのが私の仕事です。
産業医として活動していると、こんな相談を受けることがよくあります。
相談の時点で「やめたい」という意思がはっきりしていることもあれば、「とにかくつらい、誰かに相談したい」という状態のこともあります。
働いていると誰だってつらくなること、ありますよね。
厚生労働省の調査によれば、働く人のうち仕事で強い不安・悩み・ストレスを感じている人は58.3%。(平成29年度労働安全衛生調査(実態調査)より)
5人中3人もの人が仕事でストレスを感じたりつらさに悩んだりしているのです。
会社や職場環境などに問題があるせいもありますが、特段これといった原因が無くても「つらい」気持ちが出てくることがあります。
そのつらさは、心(脳)の病気やからだの病気が原因かもしれません。
目次
もしも今こんな「つらい症状」に悩んでいるのなら
ここ最近2週間について思い出してみてください。
- ゆううつな気分が続いている
- 何もやる気が出ない、何をしても楽しくない
このふたつのうちどちらかでも当てはまるのであれば、まずは仕事のことは置いておいて、あなた自身のつらさへの対処が必要です。
うつ病などの可能性があります。
※あくまで可能性であって、この時点で必ず診断できるわけではありません。
専門家の力を借りて回復するのが最優先です。
精神科を早めに受診してください。
そして、つらい気持ちについて、しっかりと受け止めてもらいましょう。
もしも薬を処方されたら、しっかり飲むこと。
そして、ゆっくり休むこと。
①ゆううつな気分が続いている状態とは
自分の今の状態が「ゆううつな気分が続いている」と言えるかどうか、よくわからないという人は、次のようなポイントに注目してみてください。
- 明るい気持ちにならない
- 気分が沈んでいる
- 悲しい
- つらい
- 泣いてしまう
多少波があったとしてもほとんど一日中こうした状態で、そんな日が2週間以上続いているという場合は、「抑うつ(よくうつ)」があるといえます。
「抑うつ」というのは「ゆううつな気分」を医学的にあらわした言い方ですね。
②何もやる気が出ない、何をしても楽しくない状態とは
医学的な表現では、「興味・喜びの喪失」や「興味・意欲の減退」などと言います。
- これまで当たり前にやっていたことがどうにもやる気が出ない、おっくうだ
- これまで好きで楽しんでいたこと(趣味など)も気が向かない、やっても楽しめない
日常生活(家事、入浴など)さえやる気が出なかったり、好きなはずのことなのに以前のように楽しめないという状態が2週間以上続いていれば、チェックの二つ目に当てはまるといえます。
「うつ」ではこんな症状が出ることもある
上の二つは「うつ病」に関わる重要な項目ですが、他にも色々な症状が出てくることがあります。
- 食欲がない または 食欲が過剰
- 眠れない または 寝ても寝ても眠い
- すごく気持ちが焦る または 何も考えていられない
- じっとしていられない または 動きが遅くなった
- 集中力、注意力が低下している
- すぐ疲れてしまう、わけもなく疲れている
- 自分に価値がない、自分は役に立たないと考える
- 自分のせいで物事がうまくいかないと考える
- 何も決められない
- 将来に希望が持てない
- 自分が死んだ方が周囲の人は幸せだと考える
- 「死ぬこと」について考えたり、死にたい気持ちになったりする
こうした症状があるのなら、やはりうつ病の可能性は否定できません。
家族や友人など信頼できる人に相談したり、専門家を頼ったりしてください。
「うつ病」ではなかったとしても、こんなに心が疲れて弱っている時には、一人で抱え込んではいけません。
人に頼るべき時があるとしたら、今ですよ。
誰かに頼ることは悪いことではありません。
誰だって疲れて弱ってしまうことはあるのですから、こんな時ぐらい弱音を吐いていいんです。
精神科医または産業医に相談しましょう
もし職場に産業医がいるのであれば、面談の希望を出して早めに相談することをお勧めします。
その産業医が精神科専門かどうかは関係ありません。
産業医はあなたを含む職場の全員の健康を守るためにそこにいます。
あなた自身のつらさを解消していく助けになるのはもちろん、他にもつらさを抱えて悩んでいる人がいれば助けて支える役割を果たします。
そして、会社側に何か落ち度や改善すべき点があるのなら、会社に対して改善を要求することもできます。
産業医の意見がすべて通るわけではないものの、一社員が単独で行動するよりは効果があることが多いでしょう。
精神科を受診するべきかどうかのアドバイスもできますし、受診先の医師と一緒にあなたを支えていくべく、医師同士で連携することもできます。
ただ、産業医がいない職場も多いため、その場合は保健師や心理士など他の専門職に相談するか、直接精神科を受診してください。
都会の精神科クリニックはどこも仕事や人生に悩んでいるひとたちでいっぱいですが、まずは自宅近くなど通いやすいところに相談してみるのがお勧めです。
初診は要予約のこともありますので、HPなどで確認するか、電話して尋ねてみてくださいね。
HP確認や電話自体がおっくうでできない場合は、家族や友人に代わりにおねがいすることも大事です。
あなたのまわりを味方になって助けてくれる人で固めるイメージです。
繰り返しますが、今こそ人に頼るべき時ですよ。
「うつ」の時、心が弱っている時にやるべきこと、やってはいけないこと
やるべきこと:休む、寝る、治療する
上の二つのチェックに当てはまった人は、すでに心がかなり疲れてしまっています。
「うつ病」と診断される人もいるでしょうし、診断されなくても心が弱っていることには違いありません。
まずは力を取り戻して蓄えるときです。
何もやる気がしない、疲れ果てているあなたに必要なのは「休養」です。
仕事は休んでいいんです。
病院で薬が処方されたなら、しっかり飲んでゆっくり寝ましょう。
初めて精神科で薬をもらった人は不安になるかもしれませんが、専門家の指示に従って正しく使えば、薬漬けのようになったりはしません。
特に、うまく眠れないという人は、薬をきちんと使うことが重要です。
眠れなければ回復までの道のりは険しいものです。
薬の力を借りてでも脳を休めてあげましょう。
寝て、休んで、寝て、休む。
合間に、主治医の外来を予約のタイミングで受診しましょう。
するべきことは、
- 専門家(精神科医など)に相談し、指示に従う
- 寝る、休む
この二つだけです。
食事もお風呂もやる気が出ないならちょっとぐらい飛ばしたって大丈夫。
薬が出たなら薬を指示通り飲んで、次の予約日に受診すること。
やる気が出てくるまではとにかく休むこと。
あ、会社を無断欠勤はしないようにしてくださいね。
心配した会社の人が自宅にやって来てしまうこともありますよ。
就業規則などによっても違いますが、通常は「体調不良で休む」と管理職に伝えればOKですよね。
もし主治医からまとまった期間休むように診断書が出たら、どのタイミングで会社に提出するかを職場の人(管理職、上司、人事部門、産業医など)に相談してみるといいでしょう。
やってはいけないこと:重大な決断
心が弱って気持ちが落ち着かず、頭がうまく働かないような時に、慣れないことや新しい挑戦、重大な決断をすることはやめましょう。
退職・転職、離婚、大きな買い物(借金)などはできる限り先延ばししてください。
心が弱っている時、人はいつもと同じように考えたり決断したりすることができません。
こんな時は石のようにじっとして、安全地帯の布団にくるまって時がたつのを待ちましょう。
無理をしないこと。
そして、もう一つ大事なことがあります。
自分を傷つけないこと。死んでしまわないこと。
死にたくなるほどのつらさや、死んでしまいたくなる衝動は、「うつ病」などの病気のせいです。
病気になるのはあなたが弱いせいでも甘えているせいでもありません。
悪さをしているのは病気の方なので、病気の治療によってつらさはやわらいでいくはずです。
弱り切っていると、自分なんていなくなった方が皆幸せになれる、なんて考えに頭を支配されてしまうことがあります。
決してそんなことはありません。
死にたいぐらいのつらさがあるなら、必ず家族や専門家(精神科医など)に相談してください。
恥ずかしいことではなく、病気の重大な症状の一つなのです。
しっかり主治医に受け止めてもらって、治療していきましょう。
からだの病気が隠れている可能性がある
「つらい」「気分が落ち込む」「ゆううつ」「やる気が出ない」といった症状は、何も精神科の病気ばかりが原因とは限りません。
これまで元気だった人からこのような症状で相談されたら、からだの病気(身体疾患)が隠れている可能性については必ず考えます。
眠れないつらさに対して睡眠剤を処方するなど、当面のつらさを取り除くための治療と、つらさの根本的な原因を突き止めるための検査を同時に行うことが多いでしょう。
ゆううつな気分である「抑うつ」は、様々な身体疾患の症状のひとつとして出てくることがあるのです。
- 甲状腺機能低下症または亢進症
- 悪性疾患(悪性リンパ腫や膵臓がんなど)
- クッシング症候群
- 脳血管障害
- 薬の影響
「抑うつ」が症状として現れる有名なものだけでもこれぐらいはあります。
身体疾患による「抑うつ」は頻度としてそれほど多いわけではありませんが、やはり頭には置いておくべきです。
最初に精神科に行っても簡単な血液検査や問診などからわかることもあり、専門家ならそのための検査をしてくれるはずです。
精神科は敷居が高いとか、行きにくいという人は、最初に内科を受診するのもアリです。
可能であれば『内分泌・代謝』内科がお勧めではありますが、近くになければ一般の内科でもいいでしょう。
もちろん、からだの検査で異常がなければ、精神科の専門医のもとで治療を受けるのが一番ですけどね。
体の症状でも「うつ病」が原因のことがある
これまで精神的なつらさについて様々な症状をあげてきましたが、「うつ病」など心(脳)の病気の症状は体に出てくることも多くあります。
眠れないとか疲れやすいといった症状はすでに挙げていますが、他にも「うつ病」は多彩な症状の原因となります。
- 眠れない、朝早く目が覚める
- からだがだるい、疲れやすい
- 食欲がない、体重が減った
- 便秘、下痢
- 頭痛
- 腹痛
- 肩こり
- 微熱が続く
- めまい
- 息切れ、息苦しい
- 性欲が落ちた
こうした不調の数々も、2週間以上続いているのであれば「うつ病」によって起きている可能性が否定できません。
もちろん最初にみた二つのチェック、「抑うつ」と「興味・喜びの喪失」の一つ以上にあてはまる場合、ではありますが。
こうした不調が原因で気分が落ち込んだりゆううつになったりするのだ、と感じる場合でも、やはり「うつ病」であることがあるのです。
うつ病は誰だってなりうる
もともとの性格から「うつ病」になりやすい人、というのはいます。
ですが、それは甘えだとか弱いからでは決してありません。
うつ病になりやすい性格というのは、たいていの場合、日本社会では歓迎される「いい人」や「できる人」です。
まじめで几帳面、仕事熱心で、責任感が強く、完璧主義という人は、うつ病になりやすいタイプといえます。
しかし、不真面目で楽観主義という人でもうつ病にはなり得ます。
「絶対うつ病にならない人」というのはいないと考えるべきでしょう。
大事なのは、「うつ病」などのつらさから抜け出す方法を知っておくことです。
働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」
※外部リンク。厚生労働省のメンタルヘルスに関する情報を集めたサイトです。
ポイントをまとめておきますね。
- 「抑うつ」「興味・喜びの喪失」のどちらかが2週間以上続いているなら専門家へ相談
- 家族や友人、専門家(精神科医や産業医など)を頼ること
- まずは休むことと治療することが大事
- 重大な決断は先延ばしにする
- 自分を傷つけないで
- からだの病気(身体疾患)が隠れているかも
- からだの症状(身体症状)も「うつ病」などのせいかも
- 「うつ病」は誰でもなる可能性がある