医師なら誰でも、一定の講習を受けさえすれば産業医の資格を手にいれることができます。
産業医のことはよくわからないけれど、とりあえず資格だけ取っておこうかな、という人もいるでしょう。
誰かに勧められたからとか、いつか役に立つかもしれないからとか、理由は様々。
もちろん中には希少な専業の産業医として、どっぷり専門的にやっていきたいという人も少ないながら存在します。
産業医というのは、非常に幅が広く興味の尽きない、おもしろい仕事です。
私はいち産業医として、どのような形であれ、産業医に興味を持って楽しく活躍する人が増えることを願っています。
ですが他の仕事と同様に、実際働くとなると向いている人とそうでない人がいるもの。
どうせやるなら、より適性のある仕事を楽しくしたいものですよね。
ここでは「こんな人は産業医に向いている」という特徴やポイントをあげています。
「産業医に興味はあるけど、自分は産業医に向いているのだろうか?」と悩む医師や医学生の参考になれば幸いです。
目次
こんな人は産業医に向いている
産業医とひとくちに言っても、産業医としての働き方や担当企業などによって求められる能力は違います。
ここであげているのは、こんな人なら産業医を本業としても十分楽しくやっていけるだろうな、という特徴です。
知識やテクニックはあとからいくらでも身につけることができるため、こうした部分については言及しません。
私の考える、産業医をより楽しむことのできる人の特徴とは以下のようなものです。
- 好奇心旺盛
- 人と接するのが好き
- 社会全体をより良くしていきたい
- 長い目で物事を考えるのが得意
- 周りを巻き込むのが得意
- オンとオフのメリハリのついた生活がしたい
- 未解決の問題に取り組むのが楽しい
- 想像力が豊か
好奇心旺盛
日ごろ病院で働く医師が産業医になると、はじめはどんな企業に行っても何を見ても新鮮です。
いわゆる「会社」というもの、そこで行われる意思決定の数々、扱う商品やサービス・・・
そこで働く、色々な背景や考え方を持つ、老若男女。
知らない世界に飛び込んで、そこに純粋な興味を持てる人は、産業医の仕事を楽しくできる素質があるといえます。
これは何事にも通じる話ですが、イヤイヤやると面白さには気づきにくいもの。
知らない世界を楽しむ姿勢のある人なら、産業医の面白さにはより早く気づけるでしょう。
それに、会社で働く人も人間ですから、自分たちの仕事や人生に興味のない産業医より、興味を持ってくれる産業医の方が好ましいのは当然ですよね。
好奇心いっぱいで「楽しむ姿勢」を持っている人は、結果的に良いサイクルがまわって楽しく産業医をできると考えています。
人と接するのが好き
これは産業医をするなら必須の条件といってもいいかもしれません。
産業医はとにかく人と接する仕事です。
産業医先企業の従業員との面談という1対1の関係はもちろん
従業員の上司、産業保健スタッフ、人事労務担当者、従業員の主治医、場合によっては経営者など多種多様な人たちと関係性を構築しなければ産業医の仕事は立ち行きません。
医師にも、人と接するのが苦痛な人がいますよね。
コミュニケーションが多少苦手なぐらいならまだいいのですが、人と接するのが苦痛でたまらないのなら、産業医はつらい仕事になってしまいます。
人と接するのが好きな人なら、どんどん関係者とコミュニケーションをとって、サポーターを増やしていくことで産業医活動に弾みがつけられます。
言うまでもなく、この差は大きい。
産業医をとりまくのは「医師対患者」のようなわかりやすい関係性ばかりではありません。
我が身を振り返っても、「人と人」の関係性構築については日々努力が必要と感じるばかりです。
社会全体をより良くしていきたい
産業医の扱う産業医学・産業保健は、公衆衛生と同じく社会医学分野に分類されます。
目の前の人だけでなくより広い視点で職場全体をみること、事業場単体だけでなく会社全体を意識することが必要な場面は多々あります。
単発対応の繰り返しで終わらせず、より大きなものを意識して取り組むことで、産業医業務全体に一貫性を持つことができるでしょう。
倫理観の強い医師ならば「社会全体を良くしたい」気持ちは誰しも少なからず持っているもの。
産業医はこの気持ちからくる情熱を存分に注ぐことのできる仕事の一つです。
長い目で物事を考えるのが得意
産業医の仕事には即効性のないことも数多くあります。
未来に向けて種をまくような地道な仕事も少なくありません。
感染症に抗生剤が効くとか、手術で病巣を摘出するとかいった、劇的な効果を産業医の仕事から感じる機会は多くないでしょう。
むしろ短期的には会社や労働者の反発を受けることさえあります。
産業医自身が仕事の意義を理解して、じっくりと長期的視点で取り組むのが大事。
あまりに性急なタイプの人だと、活動の成果を実感できず「産業医はおもしろくない」と感じてしまっても仕方ない部分はあると思います。
まさに「向き不向き」の部分ともいえますね。
会社やその従業員が近視眼的になりすぎているときに、より長期的な視点からの助言をすることも大事です。
長い目・広い視点で考えるのが得意な人は、産業医として活躍できることでしょう。
周りを巻き込むのが得意
産業医は一人で活動するのではありません。
月に半日などの小規模な嘱託産業医先であっても、産業医と連携する立場の人(衛生管理者など)が必ずいます。
産業医一人が会社に出向いたところで、こうしたサポーターがいなければ何一つできません。
情報をもらい、面談場所を用意してもらい、面談対象者に連絡してもらい・・・産業医の業務スケジュールを立ててもらうことだって珍しくないほどです。
会社側が産業医に求める事項と、自身が展開したい産業医活動をすり合わせて、よりよい活動に高めていくには周囲の協力が必要不可欠。
もちろん、産業保健スタッフがいれば同じ方向性で活動できた方がいいに決まっています。
サポーターが多いほど、産業医活動の幅が広がり、課題解決のスピードが上がります。
いかにサポーターを増やせるか、いかに周囲を巻き込んで大きな動きにしていくか。
産業医が主人公ではうまくいかない活動も多いため、時には仕掛け人として戦略を練って人や組織を動かす場面も必要です。
周囲を大きく巻き込んで動かす力がある人は、産業医にとても向いています。
学生時代などにイベントや部活の運営の中心的な存在だった人をイメージするとわかりやすいかもしれません。
ある意味、とても魅力的な人だと言い換えることもできるでしょう。
オンとオフのメリハリのついた生活がしたい
産業医と聞いて真っ先に「楽な仕事」と考える人もいるかもしれませんね。
それはある意味では正しく、ある意味では間違っています。
オンオフのメリハリのつきにくい過酷な医療機関勤務の臨床医に比べれば、肉体的に楽なのは間違いありません。
産業医には当直もオンコールもないからです。
緊急対応の可能性はゼロではありませんが、基本的には会社が休みなら産業医の仕事も休みです。
ですからオンとオフの区別は臨床医とは比べるまでもなくはっきりしていて、生活の見通しは立てやすい。
仕事もプライベートも充実させたい、オンとオフのはっきりした生活をしたいという理由で産業医になるのは大いにアリだと考えています。
でも単に「楽な仕事」と思って産業医を希望する人は少し注意してください。
産業医をやってみたものの、「もとの仕事の方が楽だった」とやめてしまう人も存在するのが現実です。
産業医も人の人生に深くかかわる仕事であり、責任は決して軽くありません。
ほとんどの人にとって、働くことは生きること。
命そのものを扱うことはほぼないにせよ、産業医の言葉や判断で、他人の人生を大きく変えてしまう可能性については自覚しておくべきです。
また、昨今の時流から産業医に求められる職責は増すばかりで、新たに学び対応しなければならないことが次々に出てきます。
産業医は多くの場合職場で唯一の労働衛生・産業保健の専門家です。
自分一人しかいないのなら、臨床医としての専門領域に関わらず、職場の健康問題すべてに対処しなければなりません。
もちろん各専門家ほどの知見がなくて当然ですが、それでも非医療職よりはできること・わかることがありますよね。
「それは私の専門外です」というマインドではやっていけないのが産業医です。
専門外でもわからないなりに勉強したり、専門家に助けを求めたりして、職場の健康問題を解決することが求められます。
患者さんにとって指導医も初期臨床研修医も等しく「医師」であるのと同じように、産業保健の専門家であろうがなかろうが会社側からすれば等しく「産業医」なのです。
「○○科専門だからメンタル対応はできません」とか「生活習慣病はよくわかりません」では会社側は困ってしまいます。
最初から何でも完璧にはできなくて当然。
課題にぶち当たった時に解決に向けてどのように動くかが重要です。
幅広く対応していくことをやりがいと感じる人は産業医を楽しめるでしょうし、専門外の仕事を極力引き受けたくないスタンスの人は苦しいでしょう。
もちろん、専門領域だけに注力するのを否定するつもりはありません。
そのおかげで救われる人だっているはずですし、それだけの価値のある仕事とも言えるからです。
ただ、もしあなたがそのタイプなら、産業医は決して楽な仕事とはいえないでしょう。
楽かどうかは、こうした点も考慮してから個別に考えた方がよさそうです。
ですから「とにかく楽をしたい」という人にはお勧めしません。
「オンオフのメリハリがほしい」「当直・オンコールはいや、できない」という人には検討の価値のある仕事だと思います。
未知の問題に取り組むのが楽しい
数十年前と現在とでは産業医の中心業務は大きく変わっています。
職場の健康問題は、時代や産業の変化とともにどんどん新たな課題が出てきます。
メンタルヘルスや過重労働なんていう言葉は昔はなかったんですよね。
まだ誰も認識していなかった問題を可視化したり、言語化したりしてきた先人たちがいるということでもあります。
今後予想されている変化も色々ありますが、現時点では予想もできない問題が出てくることも当然考えなくてはいけません。
エビデンスの蓄積を待っている間もなく、手探りで課題解決に取り組まなければならない場面も多々あります。
そんな「何が正解か誰もわからない」課題に取り組むのを楽しいと思う人は、これからの産業医業界に必要な人材といえるでしょう。
次に新たな課題を見つけ、可視化したり言語化したりして社会に提起するのは、あなたかもしれません。
どんな変化が起こるのかワクワクしてしまうような人は、ぜひ産業医の世界に入ってきてみてください。
想像力が豊か
想像力はあらゆる場面で役に立つ能力です。
他人の気持ちや状況を推し量るにも、未来に起きうる変化を予測するにも、ガチガチの石頭よりは想像力豊かな方が良いでしょう。
職場巡視にしろ、健康診断にしろ、「将来どうなるだろうか」「どんなことが起きうるだろうか」と考えることは産業医の重要な役割です。
ここでいう想像力とは、奇想天外なことを考える能力という意味ではなく、地に足の着いた「先を読む力」とでもいえばいいでしょうか。
先を見通す力は、ある程度は知識や経験によってカバーすることもできますが、人の気持ちを想像する力はなかなか後から鍛えるのは難しい。
産業医の仕事はステークホルダー(利害関係者)が多いですから、自分の言動が誰にどのような影響を与えるか、という想像も大事です。
さらに、与えられた仕事だけでなく、現状を把握して今後どんなことをすべきかと考える力もここに加えたいところ。
このような「想像力」が豊かな産業医なら、今後社会がどんな変化を遂げても対応することができることでしょう。
産業医をやってみませんか
産業医に向いている人の8つの特徴をあげてきました。
これに該当する人しか産業医をしてはいけないなどと言うつもりは全くないです。
もしもひとつも当てはまらなくても、産業医を諦める必要はありません。
興味がある、その時点で産業医として活躍するチャンスはあります。
産業医不足は随分前からずっと解決していない問題ですから、どこかに活躍の場があるはず。
産業医は、非常に幅広く、飽きている暇がないほどエキサイティングで面白い仕事です。
これほどめまぐるしく変動する未完成の領域はなかなかないのではないでしょうか。
社会や産業のあり方が変われば産業医の職務もそれにあわせて変わります。
産業医が進化を止める日は来ないのかもしれません。
多くの人に産業医を経験してもらって「産業医って楽しいね」と言われることを楽しみにしているPOPでした。