こんにちは。産業医のPOPです。
あなたの職場に産業医はいますか?
産業医がどんな人で普段どんな仕事をしているか、知っているでしょうか。
産業医という仕事の認知度はまだまだ低く、その仕事の中身を「良く知っている」なんていう人はほとんどいません。
知っている人はきっと、実際に産業医と直接関わった経験がある人でしょう。
産業医志望の医師やかけだし産業医であっても、あまり実態を良く知らないことが珍しくないのです。
一言でいうなら産業医とは「働くことに詳しい、予防する医師」だと以前の記事↓で書きました。
産業医の主な業務は労働安全衛生法に規定されていますが、法律の条文を眺めても実態はつかめません。
現場で働く産業医の視点から、産業医と臨床医の違いについて考えました。
ちなみに、具体的な職務については↓こちら↓の記事がよくまとまっていてわかりやすいです。
外部リンクですが、産業医についてよりよく知りたい人はのぞいてみてはいかがでしょうか。
ここでは「産業医の職務リスト」ではなくて、それぞれの職務はどんな目的による行為なのか、という視点で見ていきたいと思います。
- 産業医に興味がある人
- 産業医が何を考えているか知りたい人
- 産業医として今後活躍していきたい医師
- 自社の産業医を育てたい人事労務担当者など
職場と仕事についての情報をあつめている
産業医と臨床医の一番の違いは、「職場、仕事、会社組織」についてどれだけ知っているかといえるでしょう。
産業医のあらゆる仕事の根幹にかかわる部分です。
- どういう仕事なのか
- どんな働き方をしているのか
- この職場にはどんな健康リスクが潜んでいるか
- どんなことを目的にした組織なのか
- どんな人が働いているのか
- この組織の健康に関する課題は何か
- この組織のキーパーソンは誰か
- どうすれば組織が動くのか
ざっと思いつくだけでも、これぐらいは把握しておきたい情報です。
もちろん専属産業医か嘱託産業医かによって、把握できる情報の程度は違います。
より広く深い情報を持っているに越したことはありませんが、月1回数時間の活動だけでは実態把握に時間がかかることもあるでしょう。
より良い産業医活動のためには、産業医個人の努力だけでなく、産業医の仕事を助けてくれる人たちの存在が欠かせません。
産業医に関わる立場の人たちから職場や仕事に関する情報を教えてもらうのが一番効率的です。
保健師、人事労務管理担当者、衛生管理者などですね。
場合によっては経営者自身が産業医の活動を支えてくれることもあるかもしれません。
こうした関係者と日ごろから良い関係性を持っておくことは、産業医としての重要な努めといえます。
もちろん人から得た情報を鵜呑みにするだけでなく、自分の力で裏付けをとっていく作業も並行して行います。
産業医が自力で情報を集めるのに役立つ職務は下記のようなものです。
- 職場巡視
- 安全衛生委員会
- 過重労働面談
- 健康診断の事後措置
- ストレスチェック
- 個別面談
他にもあげればきりがなさそうなほど、様々な場面を通じて情報を集めています。
中でも、職場巡視の重要性は見逃せません。
産業医の職場巡視を見たことがあるでしょうか?
エライ先生が職場巡視についてこんな言葉で表現しています。
虎視牛歩。
こしぎゅうほ。牛のようにゆっくりと進みながら、虎のような鋭い目でその場のあらゆる情報を収集する。
こういうと何だか産業スパイのようですが、別に会社の経営に関わるような機密情報が欲しいわけではありません。
そこで働く人の安全と健康に関わるリスクはどこに潜んでいるかわからないので、このような気持ちで職場巡視しなさいよ、という意味だったと記憶しています。
オフィスワーカー、第三次産業が増えたことで職場巡視はともすれば軽視されがちですが、どんな職場でもやはり「職場・仕事・人を知る」ことの重要性は変わらないでしょう。
職場や仕事に関する情報をどれぐらい持っているかというのは、「問題解決のスピード」や「切れる手札の数」に影響します。
あまりに職場のことを知らなさすぎると、発生した問題を解決する事さえできないかもしれません。
産業医の仕事(産業保健)の本質は現場にこそあります。
現場の状況を知らなければ、そこで起きている問題や課題を解決することも再発を予防することもできません。
もし仕事や職場についてアレコレ聞いてくる産業医がいたら、きっと仕事熱心ないい先生です。
というか、産業医としてきちんと活動しようとすると、「仕事や職場について知ること」を避けて通ることなどできないのです。
個別に面談などでお話している時に
なんて言われることがありますが、こちらとしてはこんな気持ちです。
産業医が専門とする仕事の領域を「産業保健」という言葉で表現します。
産業保健の神髄は現場にあり
テレビ会議、web会議などと同様にオンライン面談などもこれから普及していくでしょうが、「現場を知る」ことの大切さは忘れないでいたいものです。
個人だけでなく組織も対象にしている
臨床医は、受診してきた患者さん個人との関係性において治療などを行います。
産業医は社員さん個人の健康管理も行いますし、会社組織に対してもアプローチします。
どちらも産業医の大事な仕事です。
個人を対象にした仕事はイメージしやすいと思いますが、組織を対象とした仕事というのは、経験がないとよくわからない部分ではないでしょうか。
会社という組織で働くひとりひとりの安全と健康を守るには、個人にあれこれ指導するだけでは足りませんよね。
社内制度やルールをいちから作り上げたり変更したり、力を入れるポイントを決めたり変えたり・・・組織アプローチにも色々な方法があります。
これは「絶対こうすべき」という定型パターンがあるわけではないのが難しいところです。
業種業態、組織の規模、地域、経営方針、社員構成、予算などによって効果的な手段、実現可能な施策は違います。
会社の数だけそれぞれに適した組織アプローチがあるとも言えるでしょう。
最適のアプローチをするためには、前述の「知る」ことが第一条件です。
もちろん、産業医一人が奮闘するだけではなく、周囲を巻き込んで動きを盛り上げていくことも重要。
最近では健康経営という考え方が少しずつ広まってきているので、「組織の健康」にアプローチできる産業医の活躍の場はますます拡大していくでしょう。
病気になる前、病院に行く前の人にアプローチできる
この部分に魅力を感じて産業医に興味をもつ臨床医は少なくないのではないでしょうか。
私は「予防医学」に興味を持ったことから産業医の道に進みました。
病院の最前線で頑張っていると、「どうしてここまで放っておいたんだ」とか「健診を受けていれば結果は違ったかもしれないのに」と思うような出会いがあるものです。
でも、病院の勤務医は忙しすぎて、「予防」に関する取り組みはなかなかできないんですよね。
働く人たちも忙しさに追われています。
体の不調に気付いていても、つい受診を先延ばしにしがち。
病院や健診・検診を受診しない理由としてよく挙がるのは「忙しい」「時間がない」ことです。
適切なタイミングで受診したり、健診・検診を受けたりするのは簡単なことではないようだと、産業医になって気づきました。
- 「いつ」「どうやって」「どこに」受診すればいいのかわからない
- 今受診すべきかどうか、どこの病院の何科を受診すればいいのかわからない
- 現時点で痛くもかゆくもないのに健診・検診を受ける必要性を感じない
- いざとなったらすぐ病院を受診できる(今自分は健康だと思っている)
こんな理由で病院や健診などを受診しない人に「予防」に取り組んでもらうことは、病院の勤務医という立場ではほぼ不可能といっていいでしょう。
会社という「働く場」に産業医という医師がいる意義は、こんなところにもあると考えています。
職場をあげた「予防」「健康増進」の取り組みは、働く人やその職場だけでなく社会全体の利益につながります。
将来の防げる病気や防げる死をふせぐことで、大切な人を失う悲しみも、思うように働けなくなる苦しみも、医療費も、減らしていく。
病気以前の人たちに関われる産業医、いい仕事だと思いませんか。
情報の整理・中継役として機能している
最近の臨床医は、「インフォームド・コンセント」を丁寧にする先生が増えてきています。
病状、検査結果、診断、治療方針などを患者さんにきちんと説明して、治療の選択や同意を患者さん主体で進めていく取り組みのことです。
ところが産業医先で出会う社員さんには、主治医の説明がほとんど頭に入っていなかったり、誤解していたりする人たちがいます。
主治医が悪いわけでも、患者さんが悪いわけでもありません。
同じ日本語を話しているので誤解しがちですが、医師と一般の人の使う単語は必ずしも同じ意味ではない、ということが1つの理由でしょう。
病気によっては診断されたときにショックを受けすぎて頭が真っ白になり、その後の説明はうわの空でほとんど聞いていなかった、なんてことも。
大抵の人は時間を置いて繰り返し言葉を変えながら丁寧に説明を受ければ、理解できることが多いと思います。
でも病院の医師にはその時間が足りないことがほとんど。
看護師などがその説明役になってくれることもありますが、「必ず」ではありません。
産業医は患者(社員)と会社、主治医それぞれと連携をとることができる立場。
職場や仕事のことを良く知っているため、主治医が治療・リハビリの際に知っておいた方がいい職場事情などについて情報提供をすることがあります。
また、主治医から治療や病状に関する情報提供を受けて、会社側に必要な配慮を求めたり、職場環境を整えるアドバイスをしたりします。
働く人が病気をもったとき、病院(主治医)と会社、本人の間で情報を整理して連携を取り合う中継役として産業医は機能するのです。
この機能を果たすためには、やはり一番初めに挙げた「職場・仕事について知っている」ことが必要なのは、言うまでもありません。
最後に
産業医の職務というのを調べれば、法令や本に色々書いてあります。
ですがそれぞれの職務の根っこに何があって、その職務を果たすことがどういう意味を持つのかについて、解説しているものはあまりないようです。
産業医それぞれのスタンスや考え方によって切り取り方はいくつもあるでしょう。
今回この記事が一番届いてほしいのは、産業医をやりたい、あるいは産業医としての活動はこれでいいのかな、と考えている医師たちです。
産業医は結構孤独な仕事なんですよね。
困った時に相談できる場はあまりなく、代わりがいないため責任は重大。
これでいいのか不安に思うことは誰しもあるでしょう。
産業医として身につけておくと役に立つ知識やテクニックは色々ありますが、それより何より一番大事なことは、ここで挙げた視点・役割を意識しながら活動することだと考えています。
臨床医のままでは難しいこと、産業医だからこそできること。
現場を知らない産業医では、「名前だけ」と言われても仕方ありません。
肩書ではなく、活動の内容次第でいくらでも「いい産業医」になっていけると思います。
一緒に「いい産業医」目指してやっていく仲間が増えると嬉しいです。
産業医ならではの視点で意識してほしいポイントをまとめました。
- 産業保健の神髄は現場にあり!あらゆる活動は情報収集のチャンス!
- 対個人の仕事は当たり前。対組織のアプローチをオーダーメイド!
- 自称健康な人にも予防活動を展開しよう!
- それ本当に伝わってる?相手に伝わる言葉や表現を駆使しよう!
- 情報を整理して中継地点として機能しよう!
おまけ。
フェイスブックに「産業保健オンラインカフェ」という非公開グループがあります。
ここでは学生から指導医・教授クラスの産業医、保健師、人事部門担当者まで様々な立場で産業保健に関わる人たちが交流しています。
- 今更こんなこと聞けない
- こんな初歩的なこと誰に聞いたらいいかわからない
- こんなとき他の人はどうしているんだろう
こんな疑問を解決してくれる貴重な場です。
興味のある方は是非参加申請してみてくださいね↓。