産業医のPOPです。
職場でのハラスメントは、セクハラやマタハラなど様々なものが挙げられます。
オワハラやカスハラなど、聞きなれないハラスメント関連の単語も次々出てきていますね。
どんな職場でも注意しないといけないハラスメントが、パワハラ。
パワーハラスメントです。
複数の人間が一緒に働く限り、パワハラが起こる可能性は常にあります。
パワハラ被害者はもちろん、加害者にだって誰でもなりたくはないですよね。
これまでパワハラを規制する法律はありませんでしたが、パワハラ被害の相談件数が右肩上がりであることなどから
2019年3月には国会に法案を提出することが閣議決定されました。
パワハラについて知り、対策を練っていきましょう。
「知ること」であなたの身を守ることができるかもしれません。
- 自分の言動がパワハラになるかどうか心配
- 自分が受けている苦痛の原因がパワハラかどうか知りたい
- どうすればパワハラにならないかヒントが欲しい
目次
パワハラとは何か?職場のパワーハラスメントの定義
厚生労働省は職場のパワハラについてこんな定義を示しています。
同じ職場で働く者に対して
職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に
業務の適正な範囲を超えて
精神的・身体的苦痛を与える 又は 職場環境を悪化させる 行為
職場のパワハラを考えるにあたり、ポイントは次の2点です。
- 「上司から部下」に対して行われるものだけがパワハラではない
- 業務上必要な指示や注意・指導の場合はパワハラではない
それぞれどのようなケースが考えられるか、見ていきましょう。
1.「上司から部下」以外でもパワハラになりうる
意外と知らない人もいるのではないでしょうか。
パワハラは必ずしも上司部下の関係性でだけ起こるのではないのです。
<例1>
- 気に入らない新上司を無視する
- 上司や同僚に対して、業務上必要な連絡・報告を意図的に遅らせる
この場合、「その職場での勤続期間」「既存の人間関係」「業務に関する情報量」などといった職場での優位性を背景に
「精神的苦痛」を与えたり「職場環境を悪化」させたりしていると言えます。
いち平社員であっても不用意な言動によってパワハラ加害者になるリスクがあり、
同僚や部下からパワハラを受ける可能性もゼロではない、ということです。
2.「業務の適正な範囲」かどうかがパワハラかどうかの境目
思いがけず誰かに自分の言動が「パワハラだ」と指摘されたのなら、それが「業務の適正な範囲」であるという説明ができなければいけません。
合理的な説明ができないのならば、それは「パワハラ」かもしれません。
もちろん、誰がどう見ても「業務を逸脱している」のであれば、アウト。
注意したいのはこんな場合でしょうか。
<例2>
- 本人や周囲の安全に関わる行為に対して、注意や指導を再三繰り返していたが改善せず、また危険な行動をとろうとしていたのでつい大声で「バカ」と怒鳴ってしまった
指導する側の心情はよくわかりますが、「大声でバカと怒鳴る」ことが「業務上適正か?」と考えると・・・答えはNOでしょう。
もちろん文字だけでは伝わらない現場の状況があるでしょうが、いつ何時も冷静に対応したいものですね。
典型的なパワハラとは?パワハラの6つの類型
厚労省は裁判例などにもとづいて、パワハラの典型的なケースとして6つの類型を示しています。
この6類型に当てはまらないパワハラも存在することには注意が必要ですが、少なくともこの6つは知っておきたいものです。
- 身体的な攻撃
- 精神的な攻撃
- 人間関係からの切り離し
- 過大な要求
- 過少な要求
- 個の侵害
それぞれ具体的に見ていきましょう。
1.身体的な攻撃
誰でもわかるような暴力はもちろんダメですよね。
刑事罰(暴行罪、傷害罪など)の対象にもなり得ます。
でも、それだけではありません。
「あかるい職場応援団」という厚労省によるパワハラのポータルサイトがあります。
こちらを見ると、「丸めたポスターで頭をたたく」のも「身体的な攻撃」にあたるとされているのですね。
つまり
キズの残るような暴力だけではなく、「業務の適正な範囲」を超えた身体的なアクションはすべてパワハラにあたる可能性がある
と考えるべきです。
少なくともポスターで頭をたたくという行為に関して「業務上の適正な」必要性を説明することはできません。
同じように、突き飛ばしたり、小突いたりするのもNG。
「不必要に他人の体に(間接的にも)触れない」のが賢い選択ではないでしょうか。
2.精神的な攻撃
身体攻撃に比べると判断が難しいこともあるでしょうが、こちらも刑法に触れる内容はもちろんアウトです。
- 脅迫
- 名誉棄損
- 侮辱
- ひどい暴言
これらは精神的な攻撃の典型例として挙げられています。
こんな発言には注意が必要です。
<例3>
- 脅迫:「俺に逆らったらただじゃおかない」「やめさせてやる」「飛ばしてやる」
- 名誉棄損・侮辱:「どんくさい」「使えない」「バカ」「アホ」「給料泥棒」
- ひどい暴言:「この野郎」「てめえ」「ばばあ」「ハゲ」「ふざけんなよ」
いずれも「業務の適正な範囲」とは言えませんよね。
直接このような言葉を向けられたのなら、もちろんパワハラ被害を受けていると言えます。
さらに、誰かがこのような精神的な攻撃を受けている場合、周囲の人々の心理的負荷にも注意が必要です。
職場環境を悪化させる行為ともいえますしね。
特に成人男性の大声には、内容に関わらず恐怖心を抱く人もいます。
地声が大きい人やぶっきらぼうな話し方がクセになっている人は、できるだけ穏やかに静かに話すように意識してみてください。
もちろん、個人の外見的な特徴をバカにすべきでないというのは言うまでもありません。
3.人間関係からの切り離し
<例1>で示した「無視する」「情報を与えない」というのはこの型に分類されます。
他にも具体例として挙げられるのが「隔離」「仲間外し」など。
たとえば、本人が望んでいないうえに業務上必要でないにも関わらず、一人だけ別室で作業させることは「隔離」にあたります。
忘年会や送別会などの連絡をわざとしないといった行為も「仲間外し」に該当します。
これらが「職場での優位性」に基づいて行われるのであれば、それはパワハラです。
「職場のいじめ」というイメージが最も近いパターンと言えるでしょう。
4.過大な要求
単に仕事が多いのがいけないというわけではありません。
業務上あきらかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害がこの「過大な要求」の具体例とされています。
- 懲罰的に「就業規則を延々と書き写させる」といった明らかに業務上不要なこと
- 新入社員に適切な指導もせず膨大な仕事を与えること
- 明らかに周囲の人よりも業務量が多くて連日一人で残業せざるを得ない
などが該当するでしょう。
業務を与える立場の人は、相手の経験や能力などを踏まえて調整したり、適宜見直したりしてくださいね。
5.過少な要求
仕事をさせすぎることだけでなく、仕事をさせなさすぎることもパワハラにあたります。
経験や能力とかけ離れた程度の低い仕事を命じたり、仕事をさせなかったりすること。
ドラマや小説では、「リストラ部屋」などと言われるような、やるべき仕事のない部署に集められた人たちが次々に退職していく様子が描かれたりしますよね。
業務上の合理性がなく、命令する側に改善の意思がないのであれば、パワハラと言っていいでしょう。
6.個の侵害
6つの類型の最後はプライバシーに関する内容です。
ここでもポイントは業務上(管理上)必要かどうか。
業務上の合理性がなければ、有給休暇の取得目的を尋ねることもパワハラになりかねません。
もちろん交際・結婚相手の有無や休日の予定などについて執拗に聞くこともすべきではありません。
コミュニケーションを図るうえでの雑談ネタとして切り出すこともあるでしょうが、相手が答えたくなさそうであれば、さっと話題を変えましょう。
従業員の配置や休暇日の調整などのためにプライベートな情報が必要な場合は、そのことを伝えたうえで情報提供を依頼するのが良いでしょう。
もちろん、家族や趣味などのプライベートの部分について悪く言ったり不必要に追及したりすることもNGです。
パワハラ防止を企業に義務付ける法案が2019年3月に閣議決定
セクハラ(セクシャルハラスメント)やマタハラ(マタニティハラスメント)は「男女雇用機会均等法」などですでに法的に規制されている部分がありますが
パワハラをターゲットとして規制する法律はありませんでした。
2019年3月にセクハラの防止措置を企業に義務付ける内容の法案が閣議決定され、国会で審議されることになりました。
「労働対策推進法」の一部改正による日本初のパワハラ法規制です。
法案が成立すれば、2020年春には企業は対策を講じないといけなくなります。
パワハラ相談窓口の設置やパワハラ加害者となった社員の処分について就業規則に記載するなどの措置が義務付けられる見込みとなっているようです。
企業が実際に何をしないといけないかという具体例や、パワハラの線引きなどについては、今後厚労省が示すガイドラインを確認する必要があります。
もちろん、ここでご紹介した定義や6類型がベースになることは間違いないでしょう。
企業はパワハラ対策を避けては通れない
パワハラについて企業が無策でいることはもはや許されない時代になっています。
訴訟リスクもありますし、従業員の士気や企業の人材確保にも影響します。
もちろん、パワハラ被害を受けた従業員のメンタルヘルス問題も大きい。
パワハラの抑止力となる処分制度を作ったり、相談窓口を設置したり、研修を実施したりといったパワハラ防止対策が企業側には求められています。
もちろん働く個人も、パワハラとは何かを知って、自身が加害者にならないように心がけたいですね。
もしあなたがパワハラの被害を受けているのなら、社内の相談窓口の他にも相談できる場所(厚労省パワハラポータルサイト「あかるい職場応援団」より相談窓口一覧)がありますよ。
パワハラ加害者にならないための心構え
同じ言葉を同じように言ったとしても、発言する人と受け取り手の関係性によって、ハラスメントかどうかが変わることがあります。
パワハラ加害者にならないためには、日ごろから職場の人全員に対して、敬意をもって丁寧に接することが大切。
部下に対する接し方のヒントとしては、「上司の目の前で、その上司の子どもである社員に対して」できる言動かどうか考えてみるといいかもしれません。
その条件ではしない・できないのなら、その行為は誰に対してもNGだと考えるとわかりやすいのではないでしょうか。
パワハラ加害者にならないことはもちろん大事ですが、パワハラと言われることを恐れすぎて業務上の適正な指導をできなくなることは避けないといけません。
仕事ですから、時には厳しい指摘をしないといけないことだってあります。
「厳しい内容を伝えないといけない」ときほど、伝え方と伝える環境には気を配ってくださいね。
- 人前でミスなどを指摘しない(できれば別室で)
- 業務上改善が必要な点だけを淡々と伝える(人格攻撃をしない)
- 落ち着いたトーンでできるだけ静かに話す
- 一度に口頭でたくさん指摘しすぎない(多い場合は回数を分けるか、書面でも伝えるとベター)
パワハラについて知っておきたい話のまとめ
パワハラの定義や典型的な6つのパターン、パワハラの具体例などを示してきました。
何がパワハラになるのかを知っておくことは、身を守ることに繋がります。
「業務の適正な範囲」として合理的な説明のできる言動かどうか、自分の胸に手を当てて時々振り返ってみてください。
何より大事なのは日ごろからの人間関係、信頼関係です。
こうした関係性をつくるのは簡単ではありません。
しかし、「厳しい指摘をするときに心がけたいポイント」で示したようなテクニック的な部分でカバーできることもあります。
できることから少しずつでも、意識して取り入れてみてくださいね。