こんにちは。産業医のPOPです。
この記事はこれから就職先を探そうとする人に読んでほしい内容です。
あなたは何を条件にして就職先の企業を選ぶでしょうか?
給料、仕事内容、勤務地・・・気になるポイントは色々ありますよね。
未来の従業員という立場からぜひ注目してほしいのが「従業員の健康」に対する姿勢です。
入社前に会社の情報を全部知ることは現実には難しいですが、公表されている情報からだけでもわかることがあります。
新卒での就職先としては大企業人気の傾向が続いていますが、中小企業にも「いい会社」はたくさんあります。
でも、中小規模で知名度が低い企業のどこを見れば「いい会社かどうか」がわかるのか、イマイチよくわからない人も多いのではないでしょうか。
働く人にとって「いい会社かどうか」を知るには、「健康経営」を実践しているかどうかを知ることが非常に役立ちます。
今回は特に中小企業の「健康経営」に焦点をあてて、「健康経営優良法人」について解説しています。
就職先を選ぶうえでの参考にしてみてください。
隠れた優良企業を見つけるきっかけになるかもしれませんよ。
- 社員の健康を大事にしている会社に就職したい
- 知名度が高くなくても「いい会社」で働きたい
- 就職先の企業について色々な角度から情報を集めたい
- 中小企業に就職するときに注目すべきポイントを知りたい
目次
健康経営銘柄と健康経営優良法人
企業の「従業員の健康」に対する姿勢を知りたい時に参考になるのが、次の3つのどれかに選ばれているかどうかです。
- 東証上場企業を対象とした「健康経営銘柄」
- 健康経営優良法人(大規模法人部門)【通称:ホワイト500】
- 健康経営優良法人(中小規模法人部門)
それぞれ詳しく見ていきましょう。
健康経営銘柄に選定されている企業はスゴイ
経済産業省と東京証券取引所が毎年共同で「健康経営銘柄」を選定しています。
選定のもとになる情報は、経産省が国内の全上場企業を対象として毎年実施する「健康経営度調査」。
2015年からはじまった取り組みで、2019年2月に5回目の発表を迎えました。
「健康経営銘柄2019」として選定されたのは28業種37社。
東京証券取引所に上場していることは選定の必須条件です。
さらに2018年までは1業種1社までとしていたため、非常に選定のハードルが高かったのが特徴でした。
2019年からは1業種1社を基本としつつ、各業種で最も高い健康経営度の企業の平均より高い健康経営度である企業も選定されています。
いずれにしても、「健康経営銘柄」に選定されるような企業の「従業員の健康」への取り組みは国内トップレベルであると言えるでしょう。
特色のある取り組みを展開している企業もありますし、多くは公式HPやCSRレポートなどで取り組み内容を公表しています。
健康経営優良法人の大規模法人部門:ホワイト500
健康経営優良法人の認定は「日本健康会議」という団体によって行われます。
もともとは「ホワイト500」の名称通り「2020年までに500法人の認定を目指す!」とされていたようですが
開始2年目の2018年にはあっさり超えて541法人。
2019年には814もの法人が認定されました。
年々すごい勢いで認定法人数が増えていますね。
制度開始以降の企業の健康への意識向上が見て取れます。
東証以外の上場企業や、惜しくも健康経営銘柄選定から漏れた企業などもホワイト500を取得していることがあります。
健康経営優良法人:中小規模法人部門
健康経営優良法人制度は、企業の従業員数によってエントリーできる先が違います。
ここでいう「中小規模法人」とは以下の通り。
- 製造業:1人以上300人以下
- 卸売業:1人以上100人以下
- 小売業:1人以上50人以下
- 医療法人・サービス業:1人以上100人以下
- 上記いずれかに該当または中小企業基本法上の「中小企業者」に該当する会社(従業員を1人以上使用していること)
大規模部門と中小規模部門では「健康経営優良法人」の認定基準も異なります。
「健康経営優良法人2019(中小規模法人部門)」の認定数は2,503。
さきほどのホワイト500とは比較にならないほどの勢い!
日本には357万もの中小企業が存在します。(2016年6月時点/中小企業庁発表より)
認定法人は数ある中小企業のなかでも「従業員の健康」に関して相当に先進的だと言えますね。
そもそも健康経営とは何か?
ここまで健康経営に関する情報をお伝えしてきましたが、そもそもなぜ企業は「従業員の健康」を大事にするのでしょうか?
社員サービス?福利厚生?
いいえ、健康経営とは福利厚生のことではありません。
れっきとした企業経営のための一つの考え方なのです。
どういうことか、簡単に見ていきましょう。
健康経営とは企業経営の戦略のひとつ
「健康経営®」はNPO法人 健康経営研究会の登録商標です。
健康経営研究会HPに健康経営とは何か、書いてありました。
健康経営とは、「企業が従業員の健康に配慮することによって、経営面においても大きな成果を期待することができる」との基盤に立って、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実施することを指しています。(NPO法人 健康経営研究会HPより)
健康経営とは企業経営の戦略であって、「経営面における成果」という見返りを期待して企業が取り組むものなのです。
この考え方はアメリカではすでに浸透しているようですが、日本ではまだ広まり始めた段階です。
従業員の健康管理に戦略的に取り組む企業は、一般に次のような効果を得られるとされています。
- 従業員の健康増進・従業員の活力向上
- 組織の活性化・生産性の向上
- 優秀な人材の獲得・人材の定着率向上
- 業績向上・企業価値向上
下に行くほど効果が得られるまでの時間が長くなります。
必ずしも即効性のあるものではなく、短期的には企業への見返りがないことも考えられますが
それでも企業の長期的成長と将来の利益のために投資するのでしょう。
優しい企業だと思っていたら根底にあるのがビジネスの考え方でがっかりするでしょうか?
もちろん「社員は家族」のような優しさや博愛精神などから取り組む企業もないわけではないでしょう。
でも特に企業規模の小さい会社の場合、個人的には自分が従業員として働くのであれば
「ビジネス・経営的な視点から従業員の健康に投資する」企業は信頼できると考えています。
ブラック企業への就職を避ける一つの方法「健康経営」
健康経営銘柄やホワイト500などのリストを見ると、名だたる大企業がずらりと並んでいます。
日本を代表するような優秀な経営者たちが、「いかに従業員の健康に投資していくか」という課題に向き合っているということではないでしょうか。
企業が従業員の健康に投資するのは、一部の世界ではもう当然のこととなってきているのです。
そうでなければ大企業であっても生き残れない時代が迫っているのかもしれません。
当然中小企業でも「どのように生き残るか」「どのように成長していくか」という長期戦略が重要になってきます。
従業員の健康に投資できるぐらいの企業であれば、そうそうつぶれないと思えますよね。
また、経営者が長期的視点から企業の成長を考えている、ともいえるでしょう。
こんな企業なら、今は規模が小さくてもいずれ大きく成長していく可能性だってありますよね。
平成29年(2017年)12月に経産省が実施した中小企業対象の調査結果を下に示します。
「健康経営」を「全く知らなかった」とする企業が半数以上も占めているのです。
「健康経営」について知っていて取り組んでいる中小企業というのがいかに先進的かわかりますね。
さらに、健康経営実践の現状と意向に関する調査結果は下のグラフのようになっています。
実践している企業はわずか21%。
青色部分「取り組んでおらず、今後も取り組むつもりはない」とする企業も存在します。
経営に余裕がないのか、「健康経営」のメリットを知らないのか、はたまた「健康経営」など不要だと考えているのかはわかりませんが、
ブラック企業である危険性も否定しきれませんよね。
これから就職するなら、できれば「健康経営実践中」の企業、せめて緑色部分「今後取り組みたい」としている企業がいいに決まっています。
でも「やるつもりがない」のか「今後取り組みたい」のかという企業の本音部分を入社前に知ることは難しいでしょう。
やはり、間違いなく「健康経営」に取り組んでいる企業に就職するには、「健康経営優良法人」にすでに認定されている企業へのエントリーが一番ですね。
健康経営優良法人(中小規模法人部門)の認定基準とは
さて、「健康経営」の重要性を改めて確認したところで、「健康経営優良法人(中小規模法人部門)」の認定基準を見ていきましょう。
中小規模法人部門の認定のための必須条件のひとつが、協会けんぽ等の「健康宣言」事業に参加していること。
この「健康宣言」に取り組んでいる法人数は2017年時点で12,195。
これだけの法人がすべて「健康経営優良法人」制度に申請しているわけではないでしょうが、やはり認定されている2,503法人(2019年2月)は中小企業における健康経営のトップランナーですね。
「健康経営優良法人(中小規模法人部門)」の認定基準(2019年)は次のようなものです。
認定を受けている法人は、少なくともこれだけの働く環境・制度を整えているのですね。
認定されたそれぞれの企業がどの項目を満たしているかについては、経済産業省のHPから適合状況(リンクはこちら)を見ることができます。
認定基準の必須項目をチェック!
「健康経営優良法人」に認定されたからには必ずクリアしている条件である「必須項目」の中身はこのようになっています。
- 「健康宣言」の社内外への発信
- 経営者自身の健診受診
- 健康づくり担当者の設置
- 40歳以上の従業員の健診データの保険者への提供
- 受動喫煙対策
- 定期健診の実施
- 保険者による特定健診・特定保健指導の実施
- ストレスチェックの実施(50人以上の事業場)
- 従業員の健康管理に関する法令について重大な違反をしていないこと
保険者というのは健康保険組合や協会けんぽなどのこと。
④と⑦は40歳以上のメタボ健診に関することです。
法令をしっかり守っている(⑤⑥⑧⑨)というのも、当たり前のようですが大事なポイント。
入社前にその企業が「健康関連の法令をちゃんと守っているか?」というのは簡単には調べられないですよね。
その意味でも、「健康経営優良法人」の認定を受けているかどうかは、就職先を選ぶうえで非常に参考になります。
①のように健康宣言を社内外に発信していれば、会社のHPなどで目にすることもできるでしょう。
本当に経営理念として浸透しているのであれば、OB訪問などで実際に働いている人に聞いてみても答えてくれるはず!
そして、中小企業の健康経営に欠かせないのが、②経営者自身の健診受診。
もちろん健診を受けていることがイコール「健康経営」というわけではありません。
しかし、規模の小さい企業は経営者の健康問題が経営危機に直結しかねません。
自身の健康を大事にする気持ちのある経営者だからこそ従業員の健康も意識できる。
さらに、経営者の急な病気による倒産リスクなどは比較的低いと考えることもできます。
エントリー候補先の企業を見つけたら、必須項目以外の適合状況もぜひチェックしてみてくださいね。
「健康経営」の企業に就職して得られるメリット
「健康経営」を実践する企業に就職した時に、得られる(かもしれない)メリットについて考えてみましょう。
リクルートのマイナビが実施した2019年卒就職意識調査によれば、企業選択のポイントは以下のようなランキングとなっています。(2つ選択式)
1位:自分のやりたい仕事(職種)ができる会社:(38.1%)
2位:安定している会社(33.0%)
3位:給料の良い会社(15.4%)
4位:社風が良い会社(14.1%)
5位:働きがいのある会社(13.7%)
6位:勤務制度、住宅など福利厚生の良い会社(13.7%)
7位:これから伸びそうな会社(12.3%)
8位:休日、休暇の多い会社(10.1%)
9位:自分の能力・専門を活かせる会社(6.6%)
10位:一生続けられる会社(6.3%)
※上位10位のみ抜粋
どれも大事なことですよね。
「やりたい仕事ができるかどうか」「専門・能力を活かせるか」などはエントリー時点ではなんとも言えないでしょうが
ランキングに入っているポイントの多くは、「健康経営」に注目することで効率的に見分けることができます。
特に中小企業の場合に「健康経営」を実践している会社が兼ね備える(あるいはその可能性が高いと考えられる)ポイントとは以下のようなものでしょう。
- 安定している(2位):経営者自身の健康リスクが低い、長期的目線での会社経営
- 社風がいい(4位):社員の健康を大事にしている
- 働きがいがある(5位):企業規模が大きすぎない+社員を大事にする→ワークライフバランスをとりつつ、若くてもやりがいのある仕事に取り組める?
- 福利厚生がいい(6位):社員の健康を大事にしている→福利厚生も充実している?
- これから伸びそう(7位):社員を大事にする、長期的目線での会社経営
- 休日・休暇が多い(8位):社員の健康を大事にする+健康関連法令の遵守→労働関連法令も遵守?→有休など取りやすい?
- 一生続けられる(10位):社員の健康を大事にする、長期的目線での会社経営
色字の部分はあくまで推測でしかありませんし、会社によっては当てはまらないこともあるかもしれないという点には当然注意が必要です。
それでも、やみくもにエントリーするよりは、「健康経営」を実践している企業の方がこうした条件を叶えられる可能性は高いでしょう。
福利厚生や給与面などは大企業と比較するとどうしても見劣りしてしまうこともあるかもしれませんが、中小企業には中小企業の良さがあります。
これから伸びて世界に名をはせるような企業に成長する可能性だって秘めています。
数百万も存在する中小企業から働き手にとって「いい会社」を選び出す一番簡単かつ確実な方法が「健康経営優良法人」の認定企業を探すことではないでしょうか。
就職先企業を選ぶときに「健康経営」を実践しているかどうかをチェックするのが当たり前の時代がもうすぐやってくるかもしれません。
ぜひ「より良い会社」を見つけて、健康的で楽しい社会人生活を送っていただければと願っています。
- 就職先を探すなら「健康経営」に着目!
- 中小企業なら「健康経営優良法人」
- 大企業なら「健康経営銘柄」か「ホワイト500」