産業医のPOPです。
メンタルヘルスの問題は誰でも経験する可能性があります。
職場の同僚や上司・部下、家族、友人。もちろん自分も。
今回は、あなたの身近な誰かが「つらそう」「なんだかいつもと違う」という時に役立てて欲しい記事です。
今困っているのならもちろんですし、そうでなくても、知識として持っておくことでいざというとき適切な行動にうつせる可能性が高まります。
うつ病のサインとして現れる変化を知り、サインに気づいたときにはどうしたらいいのか、一緒に見ていきましょう。
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目次
「うつ病」に最初に気づけるのは身近な人
精神科医はうつ病治療の専門家ですし、産業医は職場のメンタルヘルス不調(うつ病など心の病気をひとまとめにした言い方)をケアするのが大事な仕事のひとつです。
しかし誰かが「うつ病」になったとき、最初に気づけるのは我々専門家ではありません。
つらさを抱えた人が自分から相談に来るか、誰かが「あの人はうつかもしれない」と相談してくれるところから我々の仕事は始まります。
自分から相談に来る人はごくわずか。
働く人を対象にした厚生労働省の調査では、ストレスなどの相談先として一番多いのは「家族・友人」で、その次が「上司・同僚」という結果でした。(平成29年度労働安全衛生調査(実態調査)より)
実際に産業医として活動していても、上司からの相談でメンタルヘルス不調へのケアがスタートすることが多いです。
通常、うつ病などのメンタルヘルス不調は、ある日突然発症するようなものではありません。
わずかなサイン、小さな変化が少しずつ表れていることがほとんど。
このサインや変化に気づくことができるのは、「普段のその人」を知っている人だけです。
なかには自力で「あ、これはまずいサインだな」と気づいて休養をとったり病院にかけこんだりできる人もいますが、少数派といっていいでしょう。
ほとんどの人は「まさか自分がうつ病なんて」と思っています。
そして、すでに疲れ切って思考力が落ちていることもあるため、自分が「変化している」ことに気づけないことも多いのです。
そんな状態から抜け出すきっかけを作れるのは、周囲にいる身近な人たち。
あなたがサインに気づくことで初めて救われる人がいるかもしれません。
あなたが気づいた「何だかいつもと様子が違う」人を良く見てみてください。
- どんなところが「いつもと違う」のでしょうか?
- あなたが気になるのはどんな様子の時でしょうか?
その違和感や変化を掘り下げていくと、これから示していく「うつのサイン」に当てはまっているかもしれません。
「もしかしたらうつかもしれない」と疑わなければ、気づくことは難しいものです。
「いつもと様子がちがうぞ」と思ったときに、この記事を思い出してみてください。
夫や妻がつらそう?家庭で気づけるうつのサイン
日ごろ接している家族は、その人の変化に一番気づきやすいと言えます。
でも、サインの出始めは「何だか疲れているのかな」と思うぐらいかもしれません。
【家庭で気づけるうつのサイン】
- 夜眠れていない(寝つきが悪い、朝早く起きてしまう)
- 食欲がない(体重が減った)
- どうもぼんやりしている
- 会話がテンポよく進まない
- 前から好きだった趣味などへの興味を失っている
- 元気がない
- 表情が暗い
- 笑顔が出ない
- わけもなく涙を流している
- 入浴や着替えなど日常生活に支障が出ている
- 頭痛や腹痛など様々な体調不良が出ている
- 朝の支度に必要以上に時間がかかっている
- 仕事に行きたがらない
こんな変化が2週間以上続いているのであれば、うつ病などのメンタルヘルス不調をうたがったほうがいいと言えます。
注意してほしいのは、あくまで「これまでとは違う」という場合についてチェックしてほしいということです。
もともとひどく面倒くさがりな人、もともとおっとりしている人などでは上のチェックに当てはまっても「うつのサイン」とは言えません。
家族といえど、普段からろくに会話もできていなかったり、単身赴任などで接する機会がなかったりすると気付くことは難しいでしょう。
忙しい日々ですが、大事な人と少しでも言葉を交わせるような生活ではありたいものですよね。
同僚や部下がつらそう?職場で気づけるうつのサイン
大企業勤務であれば管理職研修などで「ラインケア」について講義を受けた経験のある人もいるでしょう。
働く人のメンタルヘルス不調の場合、職場でいかに早く気づけるかというのは非常に大事なポイントです。
早期発見・早期治療、「早く気づいて早く適切に対処すること」によって重症化を防ぎましょう。
軽症ですめば、治療をしながら仕事を続けることも不可能ではありません。
重症化すると入院が必要になったり、休業が長期間にわたって職場復帰に苦労したりします。
もちろん自殺という最悪の結末も考えなくてはいけません。
特にこのご時世、その人に仕事を命じる立場にある「上司」は、部下の健康管理も仕事のうち。
メンタルヘルス不調は命に関わる重大な事態ですから、決して放置してはいけないのです。
メンタルヘルス不調の原因が仕事であれば、労働災害として認定される可能性があります。
また、メンタルヘルス不調となった後の仕事の与え方(業務命令)次第では、会社の安全配慮義務違反を問われて訴訟になったりします。
メンタルヘルスは個人の問題でなく、会社組織にとっても真正面から取り組むべき重要課題と言えるでしょう。
下に示した職場で気づけるうつのサインには労務管理にも関する内容が含まれます。
【職場で気づけるうつのサイン】
- 遅刻が増えた
- 予定外の欠勤が増えた
- これまでしなかったようなミスが増えた
- 仕事の能率が低下している
- 集中力が低下している
- 受け答えがスムーズでない
- 元気がない
- 表情が暗い
- やたらと自分を責めるようになった
これらも、2週間以上続くようならうつのサインと疑ったほうがいいでしょう。
特に遅刻や欠勤はメンタルヘルス不調の早期発見にはとても重要な項目です。
ここでも重要なのは「いつもと違う」かどうか。
もともと時間にルーズな人なのか、もともとおとなしい性格なのか。
職場においても、「普段のその人」を知っていることが大事ですので、日ごろから部下や同僚とはある程度コミュニケーションをとっておいてほしいと思います。
仕事をする上でのやりとりはもちろん、挨拶からのちょっとした雑談程度でも、「何か変だな」という違和感を感じるきっかけにはなるでしょう。
部下自身が困ったときや悩んだときに、相談したいと思える上司でいてください。
日ごろの仕事や言動が信頼関係をつくります。
少なくとも、弱っている人を馬鹿にしたりおとしめたりする発言は、控えるべきですよね。
サインに気づいたらどうするべきか
さて、家庭や職場でうつのサインに気づいたとき、どうするべきでしょうか。
あなたがメンタルヘルスの専門家ではない場合、診断や治療に関しては安易に口出ししないほうがいいでしょう。
我々産業医も、「こういう状態だな」とみたてはしますが、その場で診断することはしません。
基本的には専門家(精神科医など)に紹介することを考えます。
「専門家へ相談しに行ってもらう」ことを最初の目標として、そこに至るまでにどうするべきか考えてみましょう。
1.声をかける
まず第一段階です。
家族ならそれほど難しいことではないと思いますが、職場の場合は何と言って切り出せばいいか、悩むこともあるでしょう。
でも難しく考えなくても大丈夫。
言ってしまえば、選ぶ言葉自体は何でもいいのです。
大切なのは、「あなたを心配しています」という気持ちを伝えること。
日ごろの関係性にもよりますが、下の例文を参考に自分のことばで「心配している」ことを伝えてみてください。
できれば、他の人が聞いていないタイミングや場所を選んで、そっと声をかけるといいですね。
- 最近元気がなさそうで心配してるんだけど、どこかつらいところがある?
- 何だか君らしくないミスが増えてるみたいだね。何か困っていることがある?
- 遅刻が増えているけど、夜の睡眠は最近どんな感じ?
よく言ってしまいがちな「大丈夫?」というのは、悪くはないのですがあまりその先につながらないことが多い印象です。
心配している気持ちは伝わるかもしれませんが
「大丈夫?」→「大丈夫です」
のようになりがちですよね。※個人的見解です。
そこで話が終わってしまうと次の一手が打ちづらくなってしまいます。
「専門家に相談」という目標にむけて、まずは次の「2.話を聴く」につながる声かけを心がけましょう。
「遅刻が増えている」や「ミスが増えている」といった事実を切り口にするとスムーズに切り出せます。
あくまでも「心配している」気持ちを伝えることが大事。
責めているわけではないと伝わるように、優しいトーンで話してくださいね。
睡眠もうつの人にとっては大きな問題ですので、最初のとっかかりとして聞いてみるのはおすすめです。
- うつ病だろう
- たるんでるんじゃないのか
- 気合が足りない
- おまえはダメなやつだ
メンタルヘルス不調という「こころの病気」にはまだまだ偏見や誤解も多く、最初から断定的な言い方をしてしまうのはよくありません。
本人の言い分を聞くこともなく頭ごなしに「怠けている」「ダメなやつだ」という意味を含む言葉を投げつけるのも当然NGですよね。
今どきこんなことを言う人は減っているはずと思いたいですが、こうした心無い言葉で傷つき、一人でつらさを抱え込んでしまう人はまだまだいるのが現状。
もちろん、本当に怠けているということであればきちんと指導すべきです。
でもそれは後からでもできること。
まずは本人の言い分を先入観なく受け止めてみてください。
2.話を聴く
声をかけて、あなたの「つらそう」「いつもと違う」というみたてが当たっていたとしましょう。
まずは話を聴いてみてください。
話を聴くにもコツがあります。
下のポイントを参考にしてみてください。
- 他の人に話の内容が聞こえない場所に移動する
- 近すぎず遠すぎない距離感
- 真正面よりも90度の位置がベター
- うなずいたり相づちをうったりする
- 腕や足を組まない
- ポケットに手を入れない
- 自分の意見をはさまない
- 沈黙があってもOK
- 相手のことばをくり返す
- 「話してくれてありがとう」の気持ちを伝える
職場ではもちろん、家庭で話を聴くときにも有効です。
相手の話の内容が理解・共感できなくても大丈夫。
もちろん理解できればそれにこしたことはありませんが、まずは「あなたに話してくれた」ことだけで大きな成果です。
もし「それはちょっと違うんじゃないかな?」と思っても、すぐさま否定することはせず、まずは一通り話してもらいましょう。
話しているうちに本人の中でモヤモヤが整理されて、解決法が見つかったりするような場合ならそれでOK。
やはり「何か変だ」「うつ病が疑わしい」などと感じたのであれば、次のステップに移りましょう。
一旦は解決できたと思っても、やはり「いつもと違う」状態が改善されない場合は「1.声をかける」「2.話を聴く」のステップをくり返します。
身近な存在であるあなたが「何かおかしいぞ」という違和感を抱くのなら、きっと何か理由があるのでしょう。
すぐにはわからないかもしれませんが、一度の対話で「何もない」ことにせず、引き続き注意深く様子を見てみてくださいね。
3.支える仲間を増やす
うつ病などメンタルヘルス不調のケアは、専門家でなければ難しいことがたくさんあります。
悩んでいる本人はもちろん、相談をうけたあなたもそれぞれ抱え込んでしまうのが一番よくありません。
個人情報をしっかり守ってくれて「あなたは今後どうするべきか」を一緒に考えてくれる人を仲間にしましょう。
具体的には精神科医、産業医、保健師、心理士などの専門家や、人事労務担当者などが挙げられます。
社内に相談できる相手がいないなら、社外の相談機関を利用することを提案してみるのもいいでしょう。
会社が契約しているEAP(従業員支援プログラム)や健康保険組合、自治体、国などに電話などで相談できるメンタルヘルス相談窓口があります。
身近な人がメンタルヘルス不調になったときにとまどってしまうのは当然のことです。
何らかのかたちで専門家を頼ってください。
最初はメールや電話でもかまいません。
結局のところ診断や治療は直接会って顔を見ないと始めることができませんが、まずは抱え込まないこと。
不調に陥っている本人はもちろん、身近な人であればあるほど周囲の人の判断もにぶりがちです。
「大丈夫であってほしい」という思いから、「何ともないはず」という結論に飛びつきたくなってしまうのが人間というもの。
客観的に冷静な判断ができるのは、本人と一定の距離感がある専門家だからこそとも言えます。
こんなときどうする?
上に挙げた対応だけでは不十分なときもあるでしょう。
良くあるのが、本人が病院に行きたがらないこと。
先ほども触れましたが、メンタルヘルスの領域、こころの病気にはまだ偏見や誤解を持つ人が少なくありません。
うつ病と言われたくないがために、自分をだましだまし何とかふんばっているような人もいます。
そんな人に精神科の受診を無理強いしても、たいていあまり意味がありません。
話を聴いたり仲間を増やしたりしながら、受診のタイミングを計りましょう。
↑この記事でも触れたように、精神科受診のハードルが高いのであれば最初に内科を受診することも選択肢です。
家族であれば、本人抜きで家族が先に相談に行くのもアリ。
ただし、次のような場合は無理やりにでも精神科を受診すべき時です。
- 自殺未遂をした
- 自殺未遂をしそう
- 死にたい気持ちが強そう
- 自分を傷つけたい気持ちが強そう
本人の生命の危険があるときは、最優先は命を守ることです。
これは家庭であっても職場であっても同じ。
職場であればこの状態で放置することは安全配慮義務違反になりますので、家族と連携して病院に相談するなどして、何とかして連れて行かないといけません。
場合によっては救急車を呼ばないといけなくなることもあるでしょう。
本人の意思は尊重するべきですが、命にはかえられません。
まとめ
いつもみんな元気いっぱいでハツラツとしていられたらいいのですが、そうはいかないのが人生。
残念ながら誰しも調子を崩してしまうことはあるものです。
メンタルヘルス不調も早期発見・早期治療が大事。
そのためには専門家だけが頑張ってもダメなんです。
身近なひとたちがどれだけ気づいてくれるか、にかかっています。
メンタルヘルスの問題は他人事ではありません。
どこの職場、どんな家庭でもおこりえるからこそ、「その時にどうしたらいいのか」知っておくことに意味があります。
話を聴くコツについては、ごく簡単にしか触れていませんので、また改めて記事にしていきたいと思います。
今回の記事のポイントをまとめました。
- 「うつのサイン」に最初に気づくのは大抵身近な人
- どんな人、どこの職場・家庭でもメンタルヘルスの問題は起こり得る
- 「いつもと違う」に気づくには日ごろのコミュニケーションが大事
- 支える側の立場の人もひとりで抱え込まずに誰か(専門家)を頼る!